「実用品の中に、芸術が宿る」——勝山スズ竹工芸品の物語

スズ竹工芸

富士山のふもと、河口湖町勝山。
この土地には、ひっそりと受け継がれてきた手仕事がある。

富士山1~3合目に自生する「スズ竹」を材料に編むカゴやザル。
「富士勝山スズ竹工芸品」は江戸時代から続く伝統工芸でありながら、今も地元の暮らしに寄り添い続けている。

今回お話を伺ったのは、十年前に定年退職を迎えこの道を選んだ、小佐野勝重(おさのかつしげ)さん。

祖父もスズ竹職人で、小学生の頃にザル作りを手伝った経験があるという。

小学校三年の頃から、祖父の仕事を手伝っていました。全部できたわけじゃないけど、材料を触ったり、編むところを横で見たり。そういう原体験が残っていたんですね。定年後にもう一度挑戦してみたら、これがやっぱり面白くて

かつては暮らしの中で自然と使われていた、スズ竹のカゴやザル。

時代が変わり、プラスチック製品や安価なカゴが出回っても、勝山の職人たちは手を止めなかった。

それは、スズ竹細工が「単なる生活道具」ではなく、長年使うほどに美しく育つ“本物の道具”として、人々の暮らしに根づいていたからだ。

そして、その完成度の高さこそが、変わらず作り続ける理由でもある。

改良の余地がないほど理にかなった構造、美しさと機能を兼ね備えた形。

シリーズ第2回目の今回は「変える必要がないほど完成されている」、そんな実用的で美しいスズ竹細工の魅力を紹介する。

目次

完成度が高すぎて「変わりようがない」技

小佐野さんは、編み方の普遍性を語る。

「昔と同じやり方ですよ。道具は少し便利になったけど、編み方そのものは完成度が高すぎて、変わりようがない。合理的で、美しくて、しかも長持ちする。だからこそ何百年も続いているんでしょうね」

実際に見せてもらったザルは、隅々まで張りつめたような美しさを放っている。

底の「三つ上げ」と呼ばれる部分、網代編みの均一さ。細く薄く削がれた竹が織りなす模様は、光を受けて淡く輝く。

「編み目が均一かどうか、これが一番大事です。雑に編めばすぐ壊れる。丁寧に仕上げれば、40年、50年は保ちます道具としての強さも、美しさも、全部この編み方に宿っているんです

工芸品としての美しさと、日用品としての合理性。その両方を兼ね備えているのが、勝山スズ竹の真骨頂だ。

一番難しいのは「材料作り」

完成品の美しさの裏には、想像以上に厳しい工程が隠されている。
特に難しいのが「材料作り」。竹を割り、薄く削ぎ、ひご状に整える工程だ。

「竹はね、まっすぐじゃない。割るとぐるぐる回っていくんです。だから節を真っ二つに割らないと使えない。ここがまず、職人にとっての最初の難関です」

節をきちんと割れなければ、使える部分は半分以下に…。

さらに削ったひごの幅や厚みが均一でなければ、編んだ時に歪みや隙間が生じてしまう。

2,000本削ってやっと少しまともになる。そうやって一つひとつの作業に毎回課題を持って取り組み、反省しながら次に生かす。これを繰り返さないと上達しません」

材料づくりは一発勝負。だからこそ、材料作りに全力を注ぐのだ。

「材料が良ければ、編むのは素直についてきてくれる。逆に材料が悪ければ、どんなに腕があってもきれいに仕上がらない。だから『材料作りを制する者がスズ竹を制する』っていうのは本当ですよ」

「実用品の中に、芸術がある」

芸術品のように見えるスズ竹のカゴ。しかし小佐野さんは「芸術を作るつもりはない」と言う。

「僕らが作っているのは、あくまで実用品。芸術品として高値で売れたとしても、それは生活が続かない。やっぱり実用的で、暮らしの中で使えるからこそ300年、400年と残っていくと思うんです」

そうお話を伺いながらカゴを手に取れば、しかしこれは誰もが息をのむであろうと思わざるを得ないほどの、美しさ。

網代編みの整然とした模様や裏返しても隙のない仕上げには、職人の知恵が細部にまで宿っている。

「たとえば底の部分は、あえて裏表を反対にして編むんです。そうすると水切れが良くなる。理屈通りでしょ?暮らしに根ざした工夫が、美しさにもつながっているんです」

合理的でありながら、無駄がなく、美しい。小佐野さんは「実用品の中に芸術が宿っている」と語った。

大切に使うほど、艶を増す

勝山スズ竹のもうひとつの魅力は、経年の美しさにある。

「最初は青緑色なんですけど、3年、6年、10年と経つうちに飴色になって、艶が出る。竹には油があるから、使えば使うほど味が出てくるんですよ」

新しいカゴは、清々しい青みを帯びている。
やがて陽の光や手のぬくもりを受け、黄味を増し、10年、20年と経つ頃には深い飴色になっていく。

その艶は、磨かれた光ではなく、暮らしの時間が染み込んだ光だ。

使う人の手の跡、風の通り、日の傾き。

そのすべてが少しずつ、竹に滲み込んでいく。

「毎日台所で使うザルだって、10年、20年経てば唯一無二の存在になる。こういう道具は、飽きないし、ずっと手元に置いておきたくなるんです」

プラスチック製品のように傷つけば捨てるものではなく、傷すらも味わいに変わるもの。

それはまさに、日本人が古くから大切にしてきた「侘び寂び」の心に通ずるものがある。

大切に使えば使うほど、艶が増し、しなやかに時をまとう。

その静かな変化には「日本の美」が、確かに息づいている。

品質を守るために

「一つひとつの仕事が、職人の名刺」という言葉がある。

スズ竹工芸品も同じ。粗雑に編まれたものが世に出てしまえば、伝統そのものの信頼を損なってしまう。

「やっぱり見れば分かるんです。丁寧に作られたものは何十年も保つし、手に取った時の美しさも違う。逆に、雑に作られたものは寿命も短く、見た目も不格好になってしまう。そういうものが『スズ竹工芸品』として扱われるのは残念です」

勝山スズ竹伝統工芸センターでは、品質のチェック体制や認定制度を設け、確かな技術を持った人だけが販売できる仕組みを整えている。

「本物の品質を守ること。それが職人としての誇りだと思っています」

未来へ

小佐野さんは日々、自分なりの課題を持ちながら作品と向き合っている。

「一度うまくいかなかったら、次は皮をもっと薄くしてみようとか、幅を変えてみようとか。そうやって少しずつ工夫を重ねる。それが面白いんですよ」

伝統の枠に収まりながら、確かな職人の個性を息づかせる。そこに“手仕事の今”がある。

最後に「読者に伝えたいことは?」と尋ねると、小佐野さんは静かな微笑みを浮かべた。

実用品の中に芸術がある。それをぜひ手に取って、暮らしの中で育ててほしい。使えば使うほど味わいが出て、50年先まで残っていく。そういう道具を、ぜひ知ってもらいたいですね

富士勝山スズ竹工芸品。
それは、自然と人の知恵が織りなす道具であり、芸術でもある。


今日もまた、職人の手の中で新しい一品が生まれ、未来へ受け渡されていく。

取材協力

◾️小佐野 勝重さん、スズ竹伝統工芸センターのみなさん

◾️富士河口湖町勝山
 スズ竹伝統工芸センター内 ざる工房河口湖
住所:山梨県南都留郡富士河口湖町勝山4029-5
TEL:0555-83-2111

※スズ竹工芸品は道の駅で販売しております

住所:山梨県富士吉田市新屋3-7-3
TEL:0555-21-1033

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この記事を書いた人

地元・河口湖の魅力を発信する、地方創生ライター。人の内側やこだわり、背景まで、丁寧に取材をして、魅力が伝わる記事を執筆しています。

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