「富士山からの恵みをむすぶ」
柔らかく微笑みながらそう語るのは、ふじむすびcaféさざなみのオーナー、加藤志保(かとうしほ)さん。
河口湖畔に佇むこの店は、おにぎり屋という枠を超えた場所だった。
ビーガン※1、グルテンフリー※2、ハラル※3——あらゆる食の多様性に寄り添いながら、富士山の恵みを一粒一粒のお米に込めている。
提供しているのは日本のソウルフード、おにぎり。訪れるのは、8割以上が外国人観光客だそうだ。
「お客さまには、富士山の恵みを満喫してもらいたい」と話す加藤さんに、お話を伺った。
※1 ビーガン:動物性食品(肉・魚・卵・乳製品・蜂蜜など)を一切摂取しない食生活。植物性の食材のみを使用する。
※2 グルテンフリー:小麦・大麦・ライ麦などに含まれるタンパク質「グルテン」を含まない食事。アレルギーや体質に配慮した食スタイルのひとつ。
※3 ハラル:イスラム教の教えに則った食品や調理法のこと。豚肉やアルコールを使用せず、定められた方法で処理された食材を用いる。
「富士山からの恵みを、むすぶ」

店名の由来を尋ねると、加藤さんはにこやかに教えてくれた。
「富士山からの恵みをむすぶ。それがテーマなんです」
お米は富士吉田産のミルキークイーン。
富士山の伏流水を使って炊き上げる。
塩は、駿河湾で汲み上げられた海水を薪で炊いた、おくだ荘の「井田塩」。
富士山の雪解け水が海へ流れ込む、その土地で作られたものだ。
具材も、できるだけ地域のものを選んでいる。
富士吉田の桂川で養殖されるブランド魚のマス「富士の介」や甲州ワインビーフ、富士桜ポークなど、地元の食材が中心だ。
「生産者からお客さんまで、食を通して地域を結ぶ。それがコンセプトです」
しかしこの店は、ただの「地産地消」では終わらない。
満月の日に汲み上げる、おくだ荘の「井田塩」
加藤さんが特にこだわっているのが、満月の日に汲み上げて薪で炊く、おくだ荘の「井田塩」だ。
「満月の日の塩は旨味が多いといわれていて、味がまろやかなんです」
1キロあたり1万円を超える希少な塩だが、その味に惚れ込み、2ヶ月ごとのローテーションで取り寄せている。
「生産が追いつかなくて入手が難しいこともあります。それでも、やっぱりこれが一番おいしいんです。」
この塩が、おにぎりにやさしい塩味と深い旨味をもたらしている。
「家族みんなが楽しめる食卓を」
ふじむすびには、もうひとつの顔がある。
ビーガン、グルテンフリー、ハラル……あらゆる食の多様性に対応した、珍しいおにぎり屋だ。
「うちのお店、8割以上が外国人なんです。それも、家族やカップルで来られる方が多くて。一人がビーガン、一人が普通、みたいなことも意外とあるんです」
だからこそ、誰もが同じ食卓を囲める工夫をしているのだという。
ほうとうの出汁は、プラントベースに変更可能。醤油もグルテンフリーのものを用意。梅干しや塩むすびはそのままビーガン対応になる。県のビーガンフレンドリー・ハラルフレンドリーの認証も取得済みだ。
「日本のソウルフードであるおにぎりを、より多くの人に楽しんでほしい。それだけなんです」
この姿勢は、お客さんとの対話から自然と生まれたものだという。
「最初から全部対応していたわけじゃなくて、お客さんに教えてもらいながら、徐々に対応していった部分もあるんです」
「空気をふくむように、優しく握る」
ふじむすびのおにぎりは、口に入れた瞬間にほどける。
その秘密は、握り方にあった。
「空気をふくむように、優しく握るんです。ぎゅっと握らない」
そして、塩。満月塩のまろやかな旨味が、ミルキークイーンの甘みを引き立てる。
富士の介は塩麹に漬け込み、柔らかさと程よい旨味を引き出す。添加物はほぼ使わない。添え物のだし巻き卵には地元の卵を選んでいる。
「なるべく添加物を使いたくないんです。素材の味を大切にしたいから」
「ほっとするものを、届けたい」

店内は、シンプルで静かだ。
席と席の間はゆったりと空いていて、ごちゃごちゃと物を置かない。
「あまり色々置くのが好きじゃなくて。シンプルな空間がいいなと思ってます」
朝は20〜30分ほどでさっと食べて帰る人が多いが、昼は1時間ほど滞在する人も。注文を受けてからご飯を炊くため、少し時間はかかる。けれどそれも、丁寧さの証だ。
「お味噌汁って、お母さんの味じゃないですか。刺激的じゃないけど、ほっとする。そういうものを提供できればいいなと思ってるんです」
その「ほっとする」という想いが、多様性への配慮にもつながっている。
ちなみに、お味噌汁やほうとうに使われているお味噌も、山梨県大月市から取り寄せているそうだ。
「夏は、天然氷のかき氷も」

ふじむすびでは、夏限定でかき氷も提供している。
氷は八ヶ岳の天然氷。シロップには山梨県産の桃、河口湖のブルーベリー、富士吉田の夏いちご「富士夏媛(ふじなつき)」を使う。抹茶は静岡産。
かき氷にも、富士山の恵みが詰まっている。
「富士の周り、静岡も含めて、この地域の食材を楽しんでもらえたらいいなと思って」
「細部まで、地域を結ぶ」

食材だけではない。飲み物にも、地域へのこだわりが表れている。
日本酒は地元山梨県の「七賢」や「笹一」、ビールは甲州のクラフトビール。紅茶・フレーバーティーは、加藤さんがこだわったオーガニックでコーシャ認定※のものを輸入しているという。
※コーシャ:ユダヤ教の食事規定に則った食品認証
「できるだけ地域のものやオーガニックのものを、と思って。お酒も、この土地を感じてもらえるものを置いています」
地域を応援したいという想いに、終わりはない。食材の確保も含め、試行錯誤は続いている。
満月塩は生産が追いつかず、2ヶ月に1回のペースでしか入荷しない。海苔も産地や時期によって味が全く違い、一番海苔、二番海苔と等級も分かれる。
「海苔って、潮の流れで全然味が違うんです。この時期はここ、っていうふうに、美味しいところが変わるらしくて」
それでも、お米と塩だけは妥協しない。
「お米と塩は、おにぎりの命ですから」
「河口湖に来たら、富士山の恵みを満喫してほしい」

最後に、初めて訪れる人へのメッセージを尋ねると、加藤さんはこう答えた。
「河口湖に来ていただいたら、富士山の恵みを楽しんでほしい。ほっとするものを、ゆっくり味わってもらえたら嬉しいです」
おにぎりというシンプルな食べ物に、これほどの想いと工夫が込められているとは。
富士山の水で育ったお米、満月の夜に汲まれた塩、地域の生産者が丹精込めた食材——それらが一つに結ばれて、誰もが安心して食べられるおにぎりになる。
「富士山からの恵みをむすぶ」
その言葉の意味が、ようやく理解できた気がした。
編集後記
「家族みんなが楽しめる食卓を」
加藤さんのこの言葉に、深い感銘を受けた。
おにぎり屋で、ビーガン対応。グルテンフリー対応。ハラル対応。
一見すると大変そうに思えるが、加藤さんにとってそれは「当たり前」のことなのかもしれない。
なぜなら、食卓は皆で囲み、楽しむものだからだ。
同じ家族でも、仲のよいカップルでも、食の価値観は違う。けれどそれは、分断ではなく、寄り添う理由になる。
「ほっとするものを届けたい」
その想いが、素材選びの徹底にも、多様性への配慮にも、表れている。
富士山の恵みを、誰もが味わえる形で——。
この店には、観光地の飲食店としての枠を超えた、静かな信念があるように思えた。
- 住所:〒401-0301 山梨県南都留郡 富士河口湖町船津4011
- TEL:0555-72-2056
- 営業時間:9:30~21:00(LO20:00)
※土・日・祝日は7:30~21:00(LO20:00) - 定休日:水曜日
- 特記事項:ビーガン・グルテンフリー・ハラル対応可能(事前にお伝えいただけるとスムーズです)
<HP・SNS>
公式HP:https://fujimusubi-cafe.com
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